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遠い山なみの光
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遠い山なみの光
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商品レビュー
3.5
152件のお客様レビュー
タイトルからは想像できない、薄暗くてちょっと不気味な小説。 現在居住するロンドンで自分の娘を自殺で亡くした悦子が、その体験をきっかけに、長崎に住んでいたときに出会った少し変わった母娘、佐知子と万里子との経験を回想するというもの。 大戦直後、まだ原爆からの復興も道半ばの長崎を舞台背...
タイトルからは想像できない、薄暗くてちょっと不気味な小説。 現在居住するロンドンで自分の娘を自殺で亡くした悦子が、その体験をきっかけに、長崎に住んでいたときに出会った少し変わった母娘、佐知子と万里子との経験を回想するというもの。 大戦直後、まだ原爆からの復興も道半ばの長崎を舞台背景に、母娘との出来事を想起する形で綴られていく。 佐知子は、かつては東京でそれなりの生活を送っていたが、戦争で母娘二人きりになり、長崎へとやってきた。 東京で知り合ったアメリカ人の愛人のいい加減な言動に翻弄されながらも、そのアメリカ人がいまのみじめな生活を救ってくれると信じている。 娘の万里子は10歳くらいで癇癪持ち。そして時折とても不気味な発言をして悦子を当惑させる。 悦子は自身が身重でありながらも、この母娘に協力してあげようと必死に世話をする。 佐知子と悦子は価値観が全く異なる。主人公の悦子は戦前からの日本的価値観の持ち主。一方の佐知子は戦後アメリカから導入された民主主義的解放を信じた言動をする。 会話が全く噛み合わない。まず不気味さの一端はここにある。 本作のテーマの一つは、戦後流入した新たな価値観を自分のアイデンティティとして受け入れるというところにあるのだというところが随所に感じられる。 戦前価値観側の悦子、そして悦子の面倒をみた緒方さん。そして一方が悦子の夫で緒方さんの息子である二郎と、そして佐知子。 悦子が回想する時点では、既に彼女は新たな価値観の中で生きており、その受容過程が想起するエピソードに大きく影響を与えている。 そしてもう一つの大きなテーマ。これはカズオ・イシグロの多くの作品に共通するものであるが、記憶の曖昧さ。 物語のなかで、誰かが何かを想起するという場面はごまんとある。ただ、多くの場合それは記憶とはいえはっきりと語られる。 一方のカズオ・イシグロの作品は、記憶は、本来人間の持つ記憶と同じで、とても曖昧なもの、信頼ならないものとして物語に投入される。 そして、想起する人間のそのときの状態によって、記憶は適当につぎはぎされ、都合良く改編される。 劇場で聞いた実に立体的なオーケストラが、録音で聞いたら平面的になってしまうのと同じように、時系列的な奥行きが平面へと吸収され、3年前と1年前の出来事が同一平面の記憶として存在したりする。 いなくなった万里子をおいかけた悦子が、追いかける途中でサンダルに縄がからまる。でもその記憶が、最終盤、もう一度万里子をおいかけることになった経験のときにも混在している。 この場面、心底不気味なのだが、あとから振り返ると、人間の記憶を実にリアルに表している。 彼の代名詞的な表現技法として名高い「信頼のできない語り手」というのは、この処女長編からして確立している。 すごいと思う。ただほんと、薄気味悪い。 登場人物みんな薄気味悪い。カズオさん、ほとんど日本にいなかったと聞いているけど、よくまあこんな日本人特有の気味の悪さを抽出できたなと感心する。 ああ、そうか。あまり知らないからこそデフォルメできたのかもしれない。 や。面白い。薄気味悪いけど面白い。読みやすいし、おすすめですよ。薄気味悪いけど。
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あまり見えない双眼鏡が象徴的 みようとしてもみえない、でもあながち間違ってない、暗がりの中にぼんやり浮かぶ日本像
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はじめてのカズオ・イシグロ作品。 幾度と出てくる自らの主張を正当化するちくはぐな噛み合わぬ会話から、戦後日本の価値観の移り変わりと混乱を感じる。 娘の自殺、離婚・異国への移住。大きな出来事の全ては語られず、過去の日常を回想することで、その背景に何があったのか、受け取り方が無数...
はじめてのカズオ・イシグロ作品。 幾度と出てくる自らの主張を正当化するちくはぐな噛み合わぬ会話から、戦後日本の価値観の移り変わりと混乱を感じる。 娘の自殺、離婚・異国への移住。大きな出来事の全ては語られず、過去の日常を回想することで、その背景に何があったのか、受け取り方が無数にある。読み取りきれていない行間がたくさんある気がして、読後パラパラと最初から読み返してしまった。
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