【2024年63冊目】 アメリカで起きた未曾有のテロ以降、世界は一変した。己が国の正義を守るための戦いが世界のどこかしらで起きる時代。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、各地の紛争に赴き、戦犯に裁きを下す日々を送っていた。そんな中、取り逃し続けているジョン・ポールという男がいた。クラヴィスはその男の恋人であるルツィア・シュクロウプに接近し――。 こういう人間人間した話は大好物なので、終始めちゃくちゃ好きなやつやと思いながら読みました。単なる近未来SFならば｢ふーん｣となるところですが、そこに人間、感情が絡むとこんなにも面白い。 登場人物全員、ただ己の正義を貫いていて、それが世間一般に受け入れられるか、られないか、というところ。もちろん、ジョン・ポールのように｢虐殺の王｣と呼ばれる男は9割5分受け入れられないんでしょうが、人間味があるところが本当に憎いよなぁと思います。物語の序盤に出てきた准将とか。｢どうしてこうなってしまったのか｣なんて、無辜に問いかけられたら一瞬何も言えなくなりますよね。 読み終わった時は結末がやや性急で、かつ納得いかない感じがしたのですが、ちょっと時間をおくと、咀嚼できて、クラヴィスの気持ちがボディブローのように効いてきました。 やー、人間人間してる話ですね。好きです。 読み終わってから作者さんが早逝しることを知りまして、ああ、人は見たいものしか見ないと思ったりしました。神なんていない、不平等ですね。

もう10年以上も前に読んで、あまりにも素晴らしくて、レビューが書けいないままだった。ブクログ本棚にも載せられなかった。 『ぼくの母親を殺したのはぼくのことばだ』というフレーズがある。この本は、SFというジャンルになっているけど、「言葉とは何か」というテーマに独特の方向からアプローチしている。単に何かを指し示す、表現する、伝える、記録するというツールではない。その言葉の意味することだけでなく、見えない何かまで伝えているのだ。 https://kenrisa.hatenablog.com/entry/388263850.html 伊藤計劃は映画レビューをはじめ圧倒的な知識と思考力を小説というツールで展開したのだ。この本と「ハーモニー」は僕にとって圧倒的な存在である。