著者の山口真典氏は、日本経済新聞社の元ソウル支局長。本書は、国際社会の非難を受けながらも、三代に亘る世襲体制が続く北朝鮮の、経済に留まらない社会のシステムを明らかにしようとするものである。 北朝鮮には、我々民主主義&資本主義の社会に生きる人間にとって大きな謎があるが、それは主に、「あのような強権体制を敷いて、なぜ反乱が起こらないのか」と、「多数の餓死者が出るほど経済が窮していながら、なぜ崩壊しないのか」の二つであろう。 本書では、それらについて以下のように分析・解説している。 ◆金正日・金正恩は、1.ロイヤルファミリー（直系・傍系含めて数百人）、2.抗日運動の時代から金日成に忠誠を誓ったパルチザン系の遺族が多い労働党の幹部、3.軍の幹部、の3つのグループに忠誠競争をさせつつ、権力を持つ第二人者の台頭を絶対に許さず、兆候があれば躊躇なく粛清をする。本書出版（2013年12月9日）の数日後には、金正日の実妹である金慶喜の夫で、金正恩の後見人とも言われた張成沢が、反乱罪で処刑されている。 ◆北朝鮮には「公式経済」とは全く別に「王室経済」と「軍需経済」が存在する。 ◆「王室経済」とは、出稼ぎ労働者の海外派遣、開城等の経済特区の事業、麻薬、偽札、偽タバコなどで稼いだ秘密資金で、残高はGDP総額に相当する200～300億ドルという。この資金は、金氏の家族が贅沢をするためだけではなく、党や軍の幹部にドイツ製高級車や高級酒などを下賜して忠誠を誓わせるために使われる。 ◆「軍需経済」とは、軍が傘下の武器工場や商社、金融機関を通じて執行する。1990年代に配給が滞ったことを契機に、自力で物資を調達するために、軍需物資以外の外貨稼ぎも行うようになり、軍需経済の拡大に伴って軍の力が増している。 ◆全国民を少数世帯単位に分けて相互監視・密告させる制度を導入し、党や軍に対しては、更に厳密に監視する相互牽制の仕組みを採用している。著者がヒアリングをした専門家・脱北者のほぼ全員が「クーデターはありえない」と言う。 ◆1990年代半ばに配給制度が行き詰まり、2000年代初頭には市場制度が導入されたが、これらにより、賄賂の横行、脱北者の増加、新興富裕層の台頭、中国を中心とした外国製品の大量流入などが、不可逆的に起こっている。 そして、著者は、現在の金正恩体制について、金正日と違って“引き際がわからない”と映る対外強硬姿勢と、改革・解放に進むしかないにも関わらず未だ不明確な経済政策に懸念を示し、その行方は不透明とするが、一方で、上述のような環境変化により庶民の外部社会との接点は間違いなく増えており、閉鎖的な社会への「蟻の一穴」となる可能性が高いとも言う。 近くて遠い国、しかし、実は日本にとって最も直接的な脅威ともなりかねない国・北朝鮮のシステムと現状を知る上で有用な一冊である。 （2016年3月了）

公式経済（GDP）をはるかに上回る巨大な軍需経済と王室経済。これらが金正日・金正恩体制の崩壊を防ぎ、核開発を支えている。麻薬、武器、偽札などにより蓄財した資金を使い、限られた階層にのみ十分な食料品や生活用品を確保し、手厚く保護。なかでも２万人いる高級幹部にはベンツなど世界中から買いあさった高級品を下賜し絶対の服従を誓わせる。他方、圧倒的多数を占める食うや食わずの大衆に対しては、密告制度により徹底的な管理を施す。監視の目からは絶対に逃れられない。加えて連日、連夜、課される学習と動員が生活の余裕を奪う。毎日生きていくのに精一杯で反攻する気力も暇もなくなってしまっているのが現実。大衆が辛苦の貧困を強いられながらも沈黙を守る理由がここにある。恐ろしい国である。

前々から、なぜ北朝鮮の経済は破綻しないのか疑問に思っていました。 日本の総連の人などがパチンコ業で儲けた分を送金してると思ったりしていました。 でもやっぱりほとんどの庶民の人は苦しい生活をしているんですね。 韓国の新しい大統領と日本が協力して今の北朝鮮の体制を変えれたらいいな。 北朝鮮の情勢をわかりやすく書いてくれてあり、理解しめ読めました！