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高橋悠治という怪物
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高橋悠治という怪物
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高橋悠治。むちゃくちゃ難しいクセナキスのピアノ曲『ヘルマ』を難なく弾いてしまうピアノの天才。しかし、西洋のオーケストラという制度やヴィルトゥオジテを拒否し、抑圧された人々のための「水牛楽団」で単純な曲を演奏したアンジュガマンの音楽家。とても複雑な曲を書いていたが、「水牛」のころ...
高橋悠治。むちゃくちゃ難しいクセナキスのピアノ曲『ヘルマ』を難なく弾いてしまうピアノの天才。しかし、西洋のオーケストラという制度やヴィルトゥオジテを拒否し、抑圧された人々のための「水牛楽団」で単純な曲を演奏したアンジュガマンの音楽家。とても複雑な曲を書いていたが、「水牛」のころから、身体性を大事にした、ある種、素朴な曲を書く作曲家。そしてそうしたもろもろのことに言葉を持って音を断ち切る評論家。 帯にあるとおり「初めての高橋悠治論」。確かにそうだ。今まで誰も書かなかったのが不思議なくらいだが、誰にも書けなかったのだろうか。著者は、歌って踊れる……、いや違うな、書いて出版できるピアニスト、青柳いづみこ。 エピグラム、といっていいのか、まずある中学校教員のツイートが載っている。学校で特別授業があって音楽家が来た。名前はわからない.高橋なんとか。プリント見て父親が叫ぶ「高橋悠治……おまえこの人がどれだけ偉い人か……」「用務員さんみたいな人だよ」。 関係ない人みたいにふらっと出てきてお辞儀もせずに弾き出す。ステージマナーを知らないほど頭が悪いのではないし、あいさつできないほどシャイなのでもなかろうし、はなからリサイタルなんかやる気がないのでもない。怪物というより不審者にちかいのだが、なぜ著者が怪物と呼ぶのかは読んで頂くことにしよう。 編年体の伝記ではないのだが、各章毎にテーマを決めた記述はそこそこにユージの歩みを追っている。グレン・グールドと対比する第1章は『ヘルマ』弾きのデビューころの話につらなる。第2章のユージと連弾することになった青柳の話をへて、1960年代、草月アートセンターで現代音楽弾きとしてならした頃、アメリカやヨーロッパでの活動、水牛楽団、水牛後のいろんな音楽家たちとの共演、カフカ連作、そして今世紀の活動。 しっかりと資料を集めて書いている青柳のアプローチは歴史学者的に緻密だが、やはりピアニストとしてユージを見る目が面白い。フランス学派のアカデミックなピアニズムを真面目に学んできた青柳には、生まれながらに弾けてしまったような天才肌で、しかも演奏至難な現代音楽の演奏でデビューした高橋悠治がまったく異なった進化の経路をたどった生物のようにみえるのだろう。指使いがどうのといった些細な話が面白いし、どうもピアニストとして当たり前の基礎練習ができてないみたいだし、終いにはオンチだとすっぱ抜かれる。「アタマ使って、生きようったって、頭で飼えるのはシラミだけ……」、そうだった、経年変化でついにピッチのはっきりしなくなった弦をはったヴァイオリンを弾いたみたいな奇妙な歌声だった。 他方、アカデミズムが教える、左右の手を正確に同期させるピアニズムとはまるで別のことをやろうとするユージに青柳は感嘆する。 作曲家高橋悠治についてはその道の専門家によって探求されんことを、だそうだ。そんな本が出たらまた読んでみたい。
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