元防衛事務次官による回顧録。 冷戦下での日本再軍備から、安保闘争の時期における国防への無理解と自称革新系による自衛隊への恐るべき偏見。 また、有事法制に触らない立法府の無責任、PKO派遣への左派の猛反発。そうした中で雲仙・普賢岳の噴火や神戸の震災などへの派遣により国民の自衛隊への信頼感は高まっていく。 こうした流れ自体はとくに目新しい論点ではないかもしれないが、やはり圧倒的にリアリティがあるのは著者自身による幾多の経験。米空母理発着の訓練や搭乗員の体に伝わる衝撃波など、そうやすやすと空母打撃群の運用などできないことが実感として理解できる。 宇宙での防衛も、スターウォーズ計画などと評判が悪いが、発射されればあっという間に大陸を渡る核ミサイルを抑止できれば、相互確証破壊という核の恐怖の均衡を解消する突破口になる、という側面などにも冷静に言及している。 沖縄の基地問題では基地の多くについて米軍は返還したがっているが、地代を失う地主の反対により実現できていない現実も吐露される。個人的には、沖縄にある程度基地を置かざるを得ないとしても、さすがに米軍の敵地殴り込み部隊である海兵隊は撤収すべき、との意見に一時共感していたのだが、離島は一度占領されたらすぐ既成事実化されてしまう、緊急上陸機能を持つ海兵隊は重要との指摘には考えさせられた。今まさに一番リアルな安全保障上のリスクは巡航ミサイルと離島だろうから、、、、 しかし隣国の大国化、それに反比例するかのような我が国経済力の低下、さらに災害の激甚化などの不幸が続く中で国防への信頼と依存が高まるというのも皮肉な話である。

タイトル通り日本の防衛問題を戦後からの歴史を紐解きながら丁寧に解説する教科書的良本。自衛隊が災害救助に登場するのが当たり前の風景になってきた昨今ではあるがそこに至るまでの道のりたるや…。また米軍基地問題を理解するための教科書にもなる。事務次官まで務めた守屋氏は07年小池防衛大臣と揉めて退官した翌年収賄で有罪判決を受けてはいるが今後も発言を続けて欲しい。