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湖賊の風
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湖賊の風
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「湖国の町の見果てぬ夢」 時は足利将軍家の治世、近江国琵琶湖の喉元にあたり水上交通の要衝・堅田。ここでは船道(ふなど)衆と呼ばれる船乗りたちが、時には海賊まがいの方法でその航行権を売りつけることにより、巨利と力を持っていた。彼らの背後にはその偉容とともに山門と呼ばれる天台叡山...
「湖国の町の見果てぬ夢」 時は足利将軍家の治世、近江国琵琶湖の喉元にあたり水上交通の要衝・堅田。ここでは船道(ふなど)衆と呼ばれる船乗りたちが、時には海賊まがいの方法でその航行権を売りつけることにより、巨利と力を持っていた。彼らの背後にはその偉容とともに山門と呼ばれる天台叡山の有力寺院・護正院がある。これに対して陸の商工業者である全人(まとうど)衆は、当時の振興宗教であった蓮如率いる真宗本願寺の門徒としてその結束を図ろうとする。両者の間にあってチャリンコと蔑まれた漁師の子魚鱗(ウロクズ)は、どちらにも組することなく、その天与の船さばきを以って自らを恃みさらなる野望のため今日も琵琶湖へ船を漕ぎ出す。 琵琶湖の利権をめぐり船戸衆、全人衆、さらには漁師の集落・小番城の思惑が渦巻くところへ、彼らを牛耳って利権を独占せんとする比叡山の有力坊、さらには蓮如のもとに厚い信仰を以って集う本願寺門徒が絡んでゆくという、かなり骨太な男たちの物語です。 本書では魚鱗という一匹狼で天才的な風読みの船乗りがヒーローとして設定されています。彼はどちらかといえば無口でシャイな印象ですが、その存在感は物語の要所要所で周囲を圧倒します。けれども琵琶湖という大きな舞台で彼を見るとき、この魚鱗さえも物語の一つの風景に過ぎないように思えます。 ではこの物語の真の主役とはだれか。 (すみません、ここから、個人的な妄想に入っちゃいますが) それはこの混沌とした物語を生むことになった、堅田という町そのものであるように思えました。利権をめぐる闘いの中にあって、目先のことに捕らわれず、琵琶湖そのものを手中にしようと夢見た魚鱗をはじめ、身分や立場を超えて堅田の町としての存亡を憂いた荒くれ者の船戸衆の指導者・鳥羽将監。 独立や自治という概念こそはっきり見えてはこなかったものの、琵琶湖の喉元という地の利に恵まれ、優れた船乗りや商工業者を束ねられることがあったなら、堅田という町には更なる繁栄があったのではないでしょうか。(琵琶湖の一番狭くなったところに位置する町ということでその北側には琵琶湖大橋がかかっており、今もなお交通の要衝となっています。) 個々の利を追うことなく町としての共存共栄という意識を彼らが持ち、新たなシステムを構築することを考えたのであればあるいは、大阪の堺、イタリアのベネチアのように水利を活かした湖の自治都市として成長する道があったのかもしれないのです。 応仁の乱真っ只中の京都の情勢や、堅田の背後に聳えまだまだ力のあった比叡山の圧力、比良の山々と琵琶湖の間という堅田の町の地形などを考えるとそれは現実的な話ではないのかもしれません。けれども、皆が目先のことに汲々として戦う中で、魚鱗や将監、ちっぽけな漁師でありながら人を見る眼のあった藤次郎、その鍵を握ったのかもしれない人々の運命はあまりに儚くて切ない。そのことがより堅田の町の見果てぬ夢を思わせるのです。
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