1,800円以上の注文で送料無料

  • 中古
  • 書籍
  • 書籍

飛行士と東京の雨の森

西崎憲【著】

追加する に追加する

定価 ¥1,760

¥220 定価より1,540円(87%)おトク

獲得ポイント2P

在庫なし

発送時期 1~5日以内に発送

商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 筑摩書房
発売年月日 2012/09/12
JAN 9784480804402

飛行士と東京の雨の森

¥220

商品レビュー

3.7

17件のお客様レビュー

レビューを投稿

2024/05/19

飛行士が書いた一冊の本から日本人とドイツ人のあいだに生まれた少女の人生が動きだす表題作ほか、孤独を抱えた人びとと世界の関係性を描いた短篇集。 『未知の鳥類がやってくるまで』の表題作がかなり良くてググッと心掴まれたところに、本書収録の「理想的な月の写真」がそれを上回る良さで、創...

飛行士が書いた一冊の本から日本人とドイツ人のあいだに生まれた少女の人生が動きだす表題作ほか、孤独を抱えた人びとと世界の関係性を描いた短篇集。 『未知の鳥類がやってくるまで』の表題作がかなり良くてググッと心掴まれたところに、本書収録の「理想的な月の写真」がそれを上回る良さで、創作者としての西崎憲を急に大好きになってしまった。今のとこ西崎さんの本でこの短篇集が一番好みです。 以下、気に入った作品の感想。 ◆「理想的な月の写真」 小さなレコード会社を初老の男が訪ねてきて「自死した娘のためのアルバムを作ってほしい」と言う。語り手は男が送ってきた娘の形見の品々からインスピレーションを受けて曲の構想をひねりだしてゆく。アルバムを構成する10曲分のアイデアが浮かぶ過程を追う物語なのだが、これに胸を撃ち抜かれた。 まず形見からイメージして音楽を作るという設定がたまらないし、西崎さんにしては珍しくオチがついたラストを踏まえると、六国はジョセフ・コーネルのように幻想に捧ぐ形見箱を作ったことになって一層好きだ。 そしてこの物語からは津原泰水作品と共通する思想を感じる。音楽は世界を変えられる、少なくとも誰かの頭のなかにある世界の姿を変容させることはできる、という堅い信仰心。 大金に飛びつく寓話のような出だしから徐々にこの一本筋が通った魂が見えてくるからこそ、最後の曲のアイデアもストンと腑に落ちる。先月読んで心揺さぶられたスティーブン・ジョンソンの『音楽は絶望に寄り添う』とも重なる、音楽を信じている人の物語。 ◆「淋しい場所」 自死した人に何故と問う「理想的な月の写真」と対を成す、死に場所を求めて彷徨う人の話。語り手がアマチュア写真家という設定からも「理想的な月の写真」と表裏になっているのがわかる。 生き続ける意志を失った語り手が、飛び降りるのにちょうど良さそうなマンションを見つけると急に元気になって行動力を発揮する辺りのリアリズム。だが中庭でのラストシーンで、この人は世界からの「死ぬな」というサインをずっと待っていたのだとわかる。 西崎さんは"思いがけず啓示になってしまった出来事"を取り上げることが多いけど、この人は自分から啓示を探しに行った。それで見つけたのが「死ぬな」じゃなく「まだ生きている」なのがすごい。死って死ぬまではずっと彼方なんだ。 ◆「ソフトロック熱」 高校の同級生と一緒にバンドでメジャーデビューし成功したが、脱退して今は本屋でバイトしている元ギタリストの話。「理想的な月の写真」と「淋しい場所」をアウフヘーベンしたような物語で、擦り切れた情熱がじわじわと蘇るまでを淡々と描く。 あらすじだけだと捻りのない業界物のようだし、実際語り手が辞める過程はチープなのだが(聞き馴染んだMステの悪口(笑))、そんな自分の姿を俯瞰から眺めて浮かんでくる嘲笑と嫌悪を押し殺しているような語り口が効いている。ありふれた挫折、という絶望。バンドって売れなきゃ続かないけど売れたせいで辞めたくなることもあるよなぁ、と現実世界の"逃げた"人たちの顔が浮かぶ。(しかしギタリストって自分がフロントマンの人気の二十分の一だなんて考えるもんなのかな。西崎さんはバンドマンだから実感なんだろうけど) タイトルに熱とついてるからって「おれ、やっぱ音楽好きだわ!!!」みたいな少年漫画的展開があるわけじゃない。日常の不本意のなかに出会いがあり、ちょっとした下心があり、下心を静かに超えていく新しい音楽への好奇心と懐かしい沸々とした初期衝動がある。そうか、これはまさしく初期衝動の話なのだ。ラスト一行の清々しさ。これが歌詞だったらダサいかもしれない。でもダサいことを言える人にしか残せない歌もあるのだ。

Posted by ブクログ

2018/10/08

5:しみじみ良かった。主人公や語り手が持つ薄暗さが何となく苦手ではあるのだけど、とても繊細な、かつ整った造形の短編集だと思います。「ソフトロック熱」が好き。

Posted by ブクログ

2017/09/27

西崎ワールドが静かに広がる短編集。どれも静謐で、だけど不穏さに満ちていて、何かが始まりそうで始まらなかったり、終わりそうで終わらなかったりする。飛び降り自殺をした娘の鎮魂のために曲を作ってほしいと依頼される作曲家の話「理想的な月の写真」は、ミュージシャンでもある著者の理想的な作曲...

西崎ワールドが静かに広がる短編集。どれも静謐で、だけど不穏さに満ちていて、何かが始まりそうで始まらなかったり、終わりそうで終わらなかったりする。飛び降り自殺をした娘の鎮魂のために曲を作ってほしいと依頼される作曲家の話「理想的な月の写真」は、ミュージシャンでもある著者の理想的な作曲風景のようにも読めて楽しい。そして最後の最後にぽんと謎が投げかけられて終わり。放り出される感覚がなんかクセになる。 「奴隷」は、初めSFのアンソロジーで読んですごく惹かれた。どこもサイエンスじゃないけどたしかにSF的異世界。リアルで面白い。

Posted by ブクログ

関連商品

最近チェックした商品