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君がそこにいるように
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岸本佐知子訳で「新しいアメリカの小説」シリーズの一冊を読む。新しいと言っても約20年前の言明である。気付くのは、岸本さんの翻訳したものにしてはシリアスな本であるということ。読み始めて、これが70年代の影を引きづった小説で、出版された頃には日本の読者にとって新しいかったのかも知れな...
岸本佐知子訳で「新しいアメリカの小説」シリーズの一冊を読む。新しいと言っても約20年前の言明である。気付くのは、岸本さんの翻訳したものにしてはシリアスな本であるということ。読み始めて、これが70年代の影を引きづった小説で、出版された頃には日本の読者にとって新しいかったのかも知れないが、本当に新しいと断言してよかったのかな、ということだ。 実際、同じシリーズではオースターが紹介されているのに比較して、むしろオーソドクスな印象があり、サリンジャーを彷彿とさせる語り口ですらある。 それでもユニークだと思われるのは、何も答えを出さないような態度でありながら、主人公の行動はどこかしら確信に基づいているようなところが滲み出していて(とは言っても、それは表層に浮かび上がるソプラノによる旋律ではなく、普段は意識して聞くことのない通奏低音の調べのようなものだが)とことん心理的に落ち込んでいるであろう主人公の状況であるにも係わらず、読み手には余り心の負荷が掛からない。それをもの足りないと感じる読者もいるかも知れないが、ヒッピー文化の終わった後で、東部の若者が失われた価値観を見出そうとしているような葛藤が感じられ、そのことがこの時代には新しいということだったのか、とも思うのだ。 21世紀を生きる読者にとって、この態度は、時計の針が一周した状況で、何か未来を予感させるようでもあり、心のジレンマが待ち受けているような気持ちのあせりだけが残る。そこが面白く響くかも知れない、と思うのは、少々買いかぶり過ぎだろうか。
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