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妖怪と歩く
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妖怪と歩く
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商品レビュー
3.6
7件のお客様レビュー
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いやあ、すごく面白かった。妖怪という概念は好きだけど水木しげるファンというわけでもなく、ゲゲゲの鬼太郎のアニメを小さい頃に見ていたくらいで、漫画作品に手を出したこともなかったのに何故この本を読もうと思ったのか。自分でも思い出せないのだけれど、読んで良かった、大満足です。 まず評伝というものが面白かった。自伝でもなく伝記でもない、評伝。水木しげる作品や彼の自伝(なんと5冊もある!)、そして各関係者や本人への取材など、一つの題材に関しても多角的な視点を向けることで丁寧に事実関係を明らかにしていく細やかさは、著者の生真面目な性格が良く表れていて好感が持てたし、なにより個々人の証言がそれぞれ食い違っている様やその考え得る原因など、絶対的な第三者がいなければ埋没していたであろう事実が浮き彫りになる点が興味深い。勿論、だからそれが真実だ、ということではなく、少なくとも各人の立場や思想や時の流れ方によって見える現実は異なる、ということが面白いほど明らかになる点が、良い。 水木しげると手塚治虫の確執を軸に語られる日本の漫画史やその批評も、今や世界に誇る日本文化の一角、その土台だと思うと興味深い。なにより、画風もストーリーもなにかもかも両極端な漫画家同士が反発し合うのは自明の理であり、彼らが同時代に存在し影響し合ったことこそが、日本漫画界の成熟を表しているのではないかと思う。手塚治虫があくまでも「人間」に注視した漫画家なら、水木しげるは「世界の構造」に注視した漫画家であり、彼にとって人間はあくまで「世界の構造の一部」でしかなかった、という視点はハチャメチャに面白いと思った。 意図したわけではないが、最近柳田國男の「遠野物語」を読破し、「通常人の人生観、わけても信仰の推移を窺い知る」資源としての妖怪やお化けの研究に触れた身としては、水木妖怪学の妖怪は霊(精霊)の一表現形態であり、世界の霊(精霊)の図像を集めることで数量化することができる、という論は目から鱗というか、開いた口が塞がらないというか、、、だがしかし、「目に見えない世界」を物理学で説明しようと試みる動きもある昨今、所謂「虫の知らせ」や「引き寄せの法則」と同じように、「妖怪やお化けの世界」も物理学的に論じられる時は意外と近いかもしれないと思うと、故人水木しげるがますます惜しまれる。とりあえず「水木しげるの人類妖怪学」は絶対に読もうと思った。 評伝全体に溢れる水木しげるの魅力は計り知れない。ユーモラスで毒舌家、したたかで寛容で優しさもあり、しかし非常に醒めている、世俗的、現世的で掴みどころのない正体不明の妖怪のような人物。生真面目な文章のそこかしこから濃くその人物像が匂い立ち、あくまで第三者に徹しようとする視点から時折こぼれ落ちる水木しげるへの親愛が、なにより彼の人間的魅力を伝えている。その魅力に当てられて、この歳になってまた「ゲゲゲの鬼太郎」から入門するのも悪くないかなと思いました。
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カテゴリとしてはノンフィクションが適当なんだろうけど、まぁ、水木さんだし。 「水木しげるの個人史」というよりは、「老境の水木しげるについて」水木フリークでない(重要)著者が、手探りでまとめている…ように読めた。 本文が元気なだけに、文庫版後書きのやり取りがとても切ない。
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1994年に「妖怪と歩く 評伝・水木しげる」として文芸春秋から。のち文春文庫で。 2010年に「妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる」として新潮文庫から。 2017年に「妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる 復刻版」として今井出版(米子市の地方出版)から。 と会社を変えつつ復刻を続けている。 もちろん水木しげるの凄まじい「原作力」をもとにしているのだろうが、一歩引いたドキュメンタリーとして書く足立倫行という人もすごいのだろう。 初めて読んだ作家だが、多くの著作が文庫化されている。 読んで感じたのは、 ・水木しげるの面白さは多面的なこと。古きよき田舎。戦争。紙芝居→貸本漫画→雑誌連載。民俗学。幸福への独特なアプローチという人生論。 ・自伝や自伝漫画の豊饒さ。そこから零れ落ちたり見過ごされたりしたものをドキュメントする重要度。 ・半ば醒めている。矛盾の同居。人にあまり期待しない、という姿勢。
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