フランスのノーベル賞作家ロマン・ロランの代表作。ベートーヴェンをモデルにした天才音楽家の魂の遍歴を描く。 高校生のころ抄訳を読んで感動し、全訳版に挑んだものの長すぎて中断してしまった名作。何十年もたって改めて読んでみると、やはり自分に合う小説だなぁと。とにかく、心にしみる。孤高で純粋な魂と力強い生命力を持つ主人公クリストフ。彼の体験する出来事と心の旅路に、深い次元で共感をおぼえるのだ。当時読み切っておけばよかったと後悔をいだきながら、今度こその完読を決意。 新潮文庫版第一巻ではジャン・クリストフの誕生から青年初期の挫折までが描かれる。過酷な少年期の生活、青春時代の友情や恋愛にまつわる幾つもの出会いと別れ。彼の強い生命力は魅力的な人物を多く引き寄せるが、ほとんどの出会いは苦悩や悲しみで幕を引いてしまう。挫折に打ちひしがれるなか、敬愛する伯父ゴットフリートにさとされる最後の数ページが本巻最大の見どころ。ここで名言が連発するが、ひとつだけあげておく。 『英雄ってのは、自分のできることをする人だ』 ＜ベートーヴェンがモデル＞と紹介されることが多いが、作者自身が「ジャン・クリストフの中にベートーヴェンの肖像を見ることは控えていただきたい」と書いているように、このいい方はやや誤解を招くのも確かだ。モデルにしているのは主にその精神性であり、ベートーヴェンの生涯をたどったり、デフォルメやアレンジを施して小説にしているわけではない。また、様々な登場人物の人間性を鋭く突く文体も面白い。音楽のことはさっぱりわからなくても人間描写が好きなら楽しめると思う。しかしこの主人公モテすぎワロタ。

生と世界をとらえるスケールがとても大きい。そのスケールに没入したとき、心が遠くへ放り投げられるような感銘を受けます。おそらく、ロマン・ロランが感得したことと、想像したことと、理論で導き出したことが総動員されている。それらが見事に融和していて、一巻ですでに名作の趣ありです。クリストフとゴットフリートのシーンがとても沁みます。