朝ドラの「らんまん」で牧野富太郎に興味を持ち、読み始めました。 自分が想像していた人物とはだいぶ離れていて、こんなに実家のことも妻や子供の生活も考えず、お金を湯水の様に使ってしまう人物だったとは。 小学校中退でありながら、もっぱら独学で植物学を大学の研究室並みに習得し、東大の講師として勤めるも常に借金に追われながら、その一種愛される性格もあり、バックアップする人に恵まれ、研究生活を送るそこには、牧野富太郎の膨大な研究実績、価値があったからだと思います。 牧野富太郎の植物園などの足跡を辿りながら、富太郎の人生を追想もし、もう一度この人物の大きさを考えて見たいものです。

高知生まれの大原氏の家では、牧野富太郎博士のことを、いつも牧野先生と親しみ、父親の小学校時代の先生として呼んでいたという。大原氏の父は牧野富太郎の約10歳下で、幼少期１年くらい佐川町に住んでいたことがあり、小学校に入ったばかりの頃牧野富太郎に教えを受けたというのだ。 そんな大原氏が牧野富太郎を妻寿衛子の牧野への手紙なども多数引用しながら、牧野の生涯を描く。従妹、猶との結婚も章をたてて書いている。 大原氏の考えでは、猶は妹同様に親しく育った、頭はよく気立てもよいが、美人ではなくいささか骨格がいかめしすぎた、祖母の進める夫婦への道も自分の運命か、と考えた女性として描いている。猶はその後岸屋の経営をおかみさんとして行っているので、結婚はきちんとしたものだったのではないか、とみる。いよいよ酒屋を畳む時は、一切を番頭の井上和之介と猶に委ねることに決め、さらに井上と猶の結婚も牧野から一族の人に披露し了解を求めた、と描く。富太郎は米十石の代金を二人から受け取り、帰京した。 ・・財産整理のための滞在は１年くらい続いたようだが、大原氏は牧野の自伝から、財産整理の実務を猶たちが行っている間、牧野は高知の高級料亭に宿をとり、音楽会などを催していたとする。確かに自伝でその部分はあった。しかも高知の女子師範に赴任した女性教師がいいかげんな教え方だ、といって牧野が高知音楽会を結成するのだ。自伝を先に読んだ時は、その時期が財産整理の時だったとは気づかなかった。 一方寿衛子は牧野がその、見た目、に惚れてしまった女性として描く。写真が載っているが、細面できゃしゃである。そして牧野のために身も心も捧げた女性として描く。なにしろ13人も子供を産み、待合を一時経営し、畳むときの売り金で東大泉に700坪の敷地を買い家を建て牧野の研究環境を整えたのである。 小説牧野富太郎、と副題はついているが、”私（大原）の考えでは〇〇・・　という部分もけっこうあり、いわゆる小説というより、牧野富太郎に関するエッセイ、考察、みたいな読み心地。 雑誌「サライ」（小学館）1999.19号～2000.10号に連載。 2001.4.10初版第１刷　図書館