骨董に憑かれた三組の骨董屋夫婦(一組は離婚済み)の物語です。骨董屋と言っても街中に高級店を構えるような人達では無く、ハタ師（独自のルート集めた骨董を業者市に売る人。店舗は持たない)や古窯の盗掘師といった底辺に蠢くような骨董屋さんで、仕事小説的な味も有ります。 三組の夫婦の物語が交互に進むのですが、その間に強い接点は無く、単純に独立した三話を並行して読んでるような気がします。その結果、540頁と言う分厚い本になり、どこか意識が分散されて印象が希薄化したようです。登場人物は骨董に「憑かれ」人たちなのですが、村田さんにしては憑かれ方が緩いのかな～という気がします。これも著者初の新聞小説だった為でしょうか。 面白かったのは彼らの審美眼です、例えば骨董の包み紙として入手した李朝民画(朝鮮李朝時代に結婚や還暦などの儀礼、装飾、魔よけ、開運などの実用的な目的に描かれた俗画)を発見して感動するシーンなど、正式な教育など無くても、叩き上げの経験によって独自の審美眼が養成される様子が随所に描かれています。この当たりが骨董や美術にのめり込む人には受けるのだろうなと思いつつ、そういう素養の無い私には・・・・。

骨董に関わる人達を描いた作品。といって美術館に並べられたり一点数千万もするような品々の世界からは遥かな下方、埃まみれ泥まみれでごそごそと蠢く人間に焦点を当てているのが村田さんらしい。 ガラクタ紛いの品物を売り買いする骨董品屋、旧家の蔵に眠る掘出し物を探して回るハタ師、埋もれた窯跡を人目を盗んで掘り返す堀り師、縁遠い世界を覗き見ているようで楽しく、掘出し物を発見する場面には胸が高鳴る。 三組の男女の行方は何とも苦く、進んでいく女の後ろ姿の強かさと置き去りにされる男達という構図にも村田さんらしさが光っている。

現代の「宝探し」物語。 なりゆき上仕方ないのかもしれないが、できればハッピーエンドになってほしかったなぁ。